【3331】 ○ 石川 弘子 『モンスター部下 (2019/08 日経プレミアシリーズ) ★★★★

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前著同様、事例が強烈でリアリティがあった。自分ならどう対処するか考えながら読みたい。

モンスター部下.jpg 『モンスター部下』['19年] あなたの隣のモンスター社員.jpgあなたの隣のモンスター社員 (文春新書)』['15年]

 気に入らない新任上司を「逆パワハラ」でうつ病に追い込む古株社員、カラ領収書を使ってキャバクラ代をせしめる社員、仕事のえり好みをして指示に従わない意識高い系社員、ダブル不倫に敗れセクハラ告発する女性社員、育児をタテにサボりを繰り返す仮面イクメン......本書では、これまであり得なかったようなトラブルを起こす「モンスター部下」が昨今増殖し、管理職の頭を悩ませているとして、彼らの実態とタイプ分類、その対処法について解説しています。

 第1章は「自己中心モンスター」のケース紹介となっていて、①謎の欠勤を繰り返し、突然、退職代行業者を使って去っていく部下、②育児を理由に周囲に仕事を押し付け、注意したら「マタハラです!」、③SNSにトンデモ動画、会社の誹謗中傷をアップしまくる20代社員、④「働き方改革」を伝家の宝刀に、やりたい放題の仮面イクメン部下、⑤「成長できる仕事」しかやらない意識高い系モンスター、⑥一方的に異性を追いかけ、歯止めがきかないストーカー社員、の6つのケースが取り上げられています。

 第2章では、こうしたモンスター部下はなぜ"量産"されるのか、その社会的メカニズムを分析し、モンスター部下のタイプとしては、第1章で紹介した「自己中心的で幼稚なタイプ」と、「そもそもモラルが非常に低いタイプ」がいるとしています。

 第3章は「低モラルモンスター」のケース紹介となっていて、①内緒の副業に経費不正、そして脱税まで?「闇収入」モンスター、②客先の男性と不倫関係に陥る、モラル欠如型モンスター、③カラ領収書で経費をせしめ、キャバ嬢に貢ぐ部下、④デイトレーダー?? 業務時間に会社のパソコンで株取引をする部下、⑤社内ダブル不倫がセクハラに? 振られた腹いせ(?)をする女性モンスター、⑦お風呂に入らず、周囲に悪臭をまき散らす「スメハラ」部下、の7つのケースが取り上げられています。

 第4章は、これも最近多い"高齢部下"の問題、「シニアモンスター」のケース紹介となっていて、①若手社員を手下につけて上司をシカトする"半グレ"シニア社員、②転職先でマウンティングし、同僚をバカにする大手出身モンスター、③舌打ちに書類投げ......成果を出さず不機嫌をまき散らす50代部下、④「俺のことをバカにしているのか!? キレる60代部下の背景に......、の4つのケースが取り上げられています。

 第5章では、モンスター部下とどう対峙すべきかを説いています。ここでは、まず、モンスター部下のタイプを知ることが肝要であるとして、モンスター部下の類型として、第2章からさらに進んで、「嘘つきモンスター」「自己愛型モンスター」「モラル低下モンスター」などを挙げ、より詳しく解説しています。

 例えば「嘘つきモンスター」は、ミスを隠蔽したり自分を優位に保つために、巧妙に嘘をつくタイプで、「自己愛型モンスター」は、女性に多い"悲劇のヒロイン"と化して、周囲の関心を得ようとするタイプや、男性に多い周囲を無能扱いすることで自分を誇示するタイプであり、「モラル低下モンスター」は、善悪よりも自分がいかに得をするかで動き、自分の過ちを他者のせいにするタイプがこれに当たるとのことです。

 また、職場のハラスメントというと、「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」が問題になるケースが多かったのが、昨今は「アルコールハラスメント」「カラオケハラスメント」「マタニティハラスメント」など様々なハラスメント問題が取り上げられており、その一方で、ハラスメントに該当する事実がないのに被害者を装い、会社に被害を訴える「偽装ハラスメント」型モンスターも多くなっているとのこと。モンスター部下のタイプによっては、承認欲求が満たされず問題行動を起こしているケースもあるが、そうした部下への対応は難しいとし、理不尽な要求を突き付けてくる部下にどう対処するのがよいか説いています。

 それらは"方法論"と言うより"向き合い方"といった感じでしょうか。また、そうしてモンスター部下と真摯に向き合っても、場合によってはやむを得ず辞めさせなくてはいけない場面も出てくるだろうとして、解雇を実施する場合の留意点を挙げています。ただし、個人的には、その前に、退職勧奨なりそれを示唆するアクションなりを実施する方が、リスクが少なく現実的ではないかという気がしました。実際、本書のケーススタディで取り上げられているものは、当事者であるモンスター部下の方から辞めていったことで問題が沈静化した例が少なからずあります。

あなたの職場のイヤな奴1.jpg アメリカでベストセラーになったロバート・I・サットンの『あなたの職場のイヤな奴』('08年/講談社)によると、グーグルには「クソッタレ撲滅ルール」があり、「悪しきことはするな」というモットーのもと、クソッタレは出世できない環境を整備しているとのことです。その本では、一時的にクソッタレになってしまった人を、何か嫌なことがあったのだろうと気遣いしてやることは必要だが、よく見守った末、たえず嫌なことをする「鑑定書つきのクソッタレ」であることが分かったならば、その時は皆で結託して追い出すべきだとしています。

 著者の前著『あなたの隣のモンスター社員』('15年/文春新書)同様に、ケーススタディが強烈でリアリティがありました(これからこんな社員がどんどん出てくるのか? ちょっとウンザリ?)。これらを読みながら、自分ならばどう対処するか、頭の中で思考実験してみるのもいいのではないでしょうか。また、「たまたま辞めてくれて助かった」で終わらせるのではなく、適正な排除機能が働く、社内健全化のための組織風土づくりというのも必要なのではないかと思いました。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 部下がモンスター化する時代
第1章 台頭する自己中心モンスター 
第2章 モンスター量産のメカニズム
第3章 低モラル社員の暴走は止まらない 
第4章 逆襲のシニア・モンスター
第5章 モンスター部下とどう対峙するか

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